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2019.12.12

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【Vol.5】軽量化を極める源流師の飯炊き術、日光国立公園の紅葉のキャンプ場で遊ぶ【リノカで行こう】

2019.12.12

連載:Renoca Rent

え! ビールの空き缶でお米が炊ける!?

今回は、近場でのお手軽キャンプの模様をお届け! 思いつきで飛び出したので、贅沢なキャンプ道具はおろか、お米を炊くコッヘルセットさえも忘れてしまった! そんな危機的状況でも、さすがはアウトドア経験豊富な源流師・金田さん。なんと、ビールの空き缶でお米を炊いちゃいます。すごい! 面白そう! 道具を持っていたとしてもチャレンジしてみたくなりますね。あらゆるものが進化し、便利になった昨今ですが、不自由な状況こそ楽しむという心構え、わたしも忘れずにいたいと思いました!(by リノカジャーナル編集部)

紅葉の下で朝を迎えたく日光国立公園を目指す

電話やメールに追いかけられながらパソコンとにらめっこして四苦八苦し、心を落ち着かせようと上を見上げても、四角く切り取られた色のない空が小さく見えるだけ。「おれにはもっと新鮮な空気が必要だ!」と心の中で叫びながら、高層ビルに囲まれた狭い空の下を駆け回り、息切れしながらふと考えた。「今年の紅葉ってもう終わったのかな?」と。
週末が休みとは言え、土日の48時間すべてを費やして遊びに出られるわけではない。次週から始まる多忙な毎日に備えて家の事もしなくてはならないのだ。少しでいい。身体の芯からおもいっきり伸びをしながら朝の新鮮な空気を肺一杯に吸い込みたいのだ。できれば色絵錦のように彩った森の中で。

紅葉のメッカ、日光国立公園に近い東古屋キャンプ場へ

年末に向かう多忙の中、必然的に「近場」という選択肢以外は考えにくい。そして下手に混雑する場所に迷い込んでしまうと、せっかくのリラックス時間も人混みや渋滞でストレスになってしまうことがある。やや近く、やや遠く、そして渋滞がなく、紅葉見物客が押し寄せない場所はないか?
そんなワガママな目的で見つけたのが、東古谷湖畔の東古屋キャンプ場だった。地図を開いてみると、関東から約150㎞。東北自動車道を下りてからも近い、理想的な僻地のように見えた。 なにより心を奪われたのが、「1人500円、クルマ乗り入れ可能」という強力な引力の誘い文句。椅子とタープ、そして焚き火台さえあれば、限られた時間をクルマ横付けの車中泊で楽しめそうだった。

同じ目的の人達が集まる桃源郷的なキャンプ場

東古屋キャンプ場はすでに多くのキャンパー達が独自のリラックス空間を作り、紅葉景色の中の素晴らしい雰囲気を満喫していた。 高まる気持ちを抑えながら、爽やかな挨拶と少しの遠慮を交えて、大胆にスペースを分けていただく。車中泊ならテントを張る必要もなく、夜露を防ぐタープだけ張れればいい。そして焚き火をいじりながら、宝石のように色づいた木々の奥の青い空を見上げるのだ。自宅からわずか2時間30分で辿り着ける自分だけの桃源郷が完成した。

便利さを追求するより、不自由を楽しむ

思いつきで家を飛び出したので、贅沢キャンプ道具はなにもなかった。それどころか、鍋とご飯を作るためのコッヘルセットを忘れてしまっていた。それに気が付いたのは、地元のスーパーで買い込んだ少しの食材でモツ鍋の仕込みをしながら、2本目のビールを空けた時だった。運よく山用のフライパンはクルマの道具入れにあったので、なんとか鍋はできる。けれどもご飯は何で炊けばいいのか?
そんな小さな悩みは0.5秒で解決する。なぜなら私が源流師であり、不自由こそ楽しむべき状況であると考えているからだ。ご飯を炊くコッヘルがないなら、いま手に持っているビール缶でご飯を炊けばいいのだ。

ビールの空き缶で1合のご飯を炊く

さて、なぜビールの空き缶でご飯が炊けるのか? それはビール缶が熱伝導率の高いアルミ製だからだ。ちなみにコッヘルでご飯を炊く場合にも、アルミ製でなければおいしいご飯は炊けない。軽量なチタン製では、熱伝導率が悪く、鍋全体に熱が回らないからだ。
ではさっそく、空き缶を利用した米炊き術を説明していこうと思う。災害時にも役に立つはずなので、マスターしておくといいだろう。マスターと言っても、お米と水を入れて、蓋して焚き火に乗せておくだけだけど……。

①まずカラになった350mlのアルミ製空き缶を用意する。米は1合がジャストフィットだ。

②洗った1合のお米を空き缶の中に入れたら、米表面から人差し指の第二関節くらいまで水を入れる。中が見えないので割りばしを突っ込んで濡れ具合で測るとよいが、適当でもよい。水は少ないより多い方がよい。それだけ覚えていればよい。

③最低30分浸す。寒い時期は2時間くらい浸してもよい。このお米を水に浸す工程がとても重要なのだ。お米がしっかり水を吸っている時間を利用して、焚き火を作り、おかず料理を楽しもう。

④お米を炊く時には、熱が逃げてしまわないように蓋をしっかりする。今回はたまたまアルミホイルがあったので蓋に利用したが、ない場合には葉っぱを重ねて石を乗せておいてもよい。なんなら空き缶を2つ重ねてもよい。蓋さえできればよいのだ。

⑤焚き火を整理して倒れない空間を作り、おもむろにそして大胆に投入する。なんなら少しくらい傾いていてもよい。要は下からしっかり、そして空き缶全体に熱が回るようにすればいいのだ。弱火とか強火とか、そんな細かいことなんて気にしなくていい。

⑥お米が炊けるということは、空き缶の中の水が全て蒸発したということだ。水は100度以上にならないので、水がある限りお米は焦げにくい。しかし水がなくなった瞬間にお米が焦げ始める。水が沸騰している感覚を知るには、蓋に割りばしなどを当てて沸騰の振動を感じよう。難しいことはない。お米と自分のフォースを信じるのだ!

⑦水が沸騰する振動がなくなったと感じたら、適当な薪や木の枝を使ってすかさず火から下ろそう。いわゆる余熱で蒸らす工程に入る。沸騰の振動で感じる水はすでになくなっているが、まだ空き缶の中には水分が多い状態だ。余熱を利用して余った水分をしっかりお米に吸わせてあげるのだ。急激に冷めてしまわないように、お米缶をひっくり返して焚き火の近くの温かい場所に置いておくだけだ。お米缶への愛おしさを感じながら、20分ほどほったらかしにする。

⑧ワクワクの期待を込めてナイフカット!

⑨華が開くようにあふれ出す炊きたてのご飯を思いっきり頬張ろう! 実はこの時マイタケがあったので、小さく切り取ったマイタケをお米と一緒にギュウギュウに詰め込んで醤油を垂らし、炊き込みご飯にしておいたのだ! 水の分量は通常通りでよい。醤油で水分が増えたってかまわない。適当が一番適する状態になる。

キャンプだからこそ楽しめることを見つける

日常の喧騒から逃げ出し、非日常を求めて自然の中に飛び込むのだから、いつもと違うことを楽しんでみてはどうだろうか? 道具はシンプルに、技術は豊富に、遊び心は満載にする。
空き缶でのお米炊きは、家族でのキャンプでも盛り上がること間違いない。そして正々堂々と義務としてビールが飲める点も強調しておきたい。
こうして不自由が楽しめるようになればなるほど、豊かで便利なキャンプ場以外の選択肢が広がるはずだ。そしてより遠く、長く、自由な旅ができるようになる。こんな小さな発想からもロードトリップの醍醐味が味わえるからやめられないのだ。

温泉は手抜きせずに極上だけを求めよう

写真提供:喜連川早乙女温泉

焚き火の煙に蒸された体を清め、多忙を極める日々の鋭気を養うためにも、温泉はぜひとも源泉かけ流しにこだわってほしい。
今回ご紹介した東古屋キャンプ場からクルマで約40分。鬼怒川を下流に下った先に、喜連川早乙女温泉という極上の日帰り温泉がある。硫黄成分が飛びぬけて強く、温泉マニア達は「アブラ臭」と例えて通い続ける湯だ。その湯量の豊富さと湯使いへのこだわりは半端なく、鮮度の高い温泉の力強さを感じることができるだろう。そして湯船と施設の作りがまたいいのだ。「雰囲気がいい」というチープな言葉では表現できない風情が、泉質に相まって相乗効果のリラックス空間を作り出している。軽く2時間は楽しめるファイブスターの温泉として強くおすすめしておきたい。

今回利用した車中泊キャンプスポット

東古屋キャンプ場→ウェブサイトはこちら
栃木県塩谷郡塩谷町上寺島744
期間:3月~12月29日
料金:500円/1人
アドバイス:格安なうえにクルマ横付けでのキャンプが可能でフラットな芝生という好条件でいつも混む。クルマを奥まで入れてしまうと出られなくなる可能性があるので、早めの到着とテント設営場所を見極めたい。ゴミは持ち帰る。焚き火の炭は炊事場隣の捨て場に。

金田剛仁さん

著者:金田剛仁KANEDA KOJI

源流ライター。1976年7月生まれ、かに座、O型。
2004年のゲリラキャンプで山に目覚め、冬は山スキー、春は山菜、夏はイワナ、秋はきのこを追いかけながら、いつの間にか深山幽谷を旅する源流師となる。日本山岳ガイド協会所属。アウトドア中心の制作会社ハタケスタジオ代表取締役。前人未踏の人力チャレンジをサポートする人力チャレンジ応援部代表。