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2021.9.8

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【Vol.53】テーマ「今だから言えること」

2021.9.8

連載:Renoca Adventure

2012年のパタゴニアエクスペディションレースを想う

チーム・イーストウインドのメンバーとして、十数年間の活動をしてきた。
その間に出場した国際レースは、12戦。
どのレースもゴール後を振り返ると「あの時にあの判断とあの言動さえなければ」というタラレバの後悔を残してきた。
あの時に眠くならなければ、あの時に道を間違えなければ、あの時に判断を変えていれば、チームメンバーへのあの言動がさえなければ…。そしてその度に自責の念に駆られた。
このレースが最後になるかもしれない、という覚悟が足らなかったのかもしれない。

その中で、会心のレースだったと言える大会があった。2012年のパタゴニアエクスペディションレースだ。
初めての準優勝だった。
経験したことのない高揚感と充実感、そしてメンバー全員でレースの展開と結果に自信を持てた。優勝までは届かなかったが、自分たちの持てる力をすべて出し切ったという達成感があった。
しかし、そんな心躍るようなレースは久しくできていない。
2016年に5度目のパタゴニアエクスペディションレースで初優勝が手の届くところまで攻めることができたが、それも2012年のあのレースほどの高揚感ではなかったと記憶している。

チーム力という無限の可能性

チーム力という無限の可能性

2012年のパタゴニアエクスペディションを一緒に戦った当時のチームメンバーとは、1戦1戦着実に成長し、チームとして自信につなげていた。そして同じチームメンバーでより多くのレースに出場することが、チーム力を向上させるために重要な要素であると理解できた。
アドベンチャーレースは競技の特性上、どうしても不確定要素が多く発生するため、チームメンバー同士の足並みが揃っていれば、困難な課題もチーム力でクリアすることができる。
アドベンチャーレースは、ワイルドな自然環境をそのまま舞台にしたコースが設定され、レース当日までその内容は非公開。他の多くのスポーツでは厳格な安全管理下で競技が行われていると思うが、アドベンチャーレースでは積極的に自然の中へとリリースされる。これほど放任なスポーツも珍しいと思う。いわゆる、必要な安全管理は自分たちで何とかする。それが大前提の世界なのである。

だからこそチーム力で戦う。チーム力とは、無限の可能性を秘めていると信じている。
その力を引き出すためには、日頃のコミュニケーションやトレーニングでも苦楽を共にし、チームメンバーを知り、そして己を知ることが大切だ。そんな濃密な時間がメンバー全員にとって有意義なものとなれば、チームは自然と強くなっていくと思う。
いたって普通でシンプルな事だが、チーム力を高めることができれば、きっとそう遠くない未来に必ずあの会心のレースと同じような時間を過ごすことができるだろう。

田中陽希さん

著者:田中 陽希YOKI TANAKA

2007年チーム・イーストウインドのトレーニング生となり、2008年4月にトレーニング生を卒業し、正式メンバーとなる。地道なトレーニングで実力をつけ、プロアドベンチャーレーサーとなる。2014~2015年、陸上と海上の両方を人力のみで繋ぎ合わせた『日本百名山ひと筆書き』と『日本2百名山ひと筆書き』に挑戦。現在『日本3百名山ひと筆書き』に挑戦中。