Renoca by FLEXRenoca by FLEX

2019.11.13

nationalpark3_0

【Vol.3】源流師のホーム、上越信州国立公園の秘境の中の秘境、秋山郷へ【リノカで行こう】

2019.11.13

連載:Renoca Rent

「山で死ぬならここ」と思えてしまう、一泊二日のキャンプ旅

今回は、源流師・金田さんが「山で死ぬならここ」と豪語する、上越信州国立公園秋山郷でのキャンプ旅の模様をお届けします。数々の絶景に、個性強めな温泉たち、たどり着くのが大変そうな宿! 読んでいるだけでも、ワクワクしてきますね。
それにしても、源流師と沢登りの違いと、想像以上にワイルドな山での過ごし方に、驚きました。。。源流師を名乗るには、かなりのアウトドア上級者でないと厳しそうですが、源流の景色とは一体どれほど素晴らしいのか、「いつかこの目で見てみたい!」と思ってしまいました。(by リノカジャーナル編集部)

源流を目指したきっかけ

私が源流を目指したきっかけは、食料の確保だった。約15年も前の話だが、はっきりと明瞭に覚えている。 友人と行ったとある登山道の入り口でゲリラキャンプをしたのが、私が山に誘われた最初の経験だった。最初というと大げさかもしれないが、ともかく山深いという感覚を得たのがその時だ。それから私は狂ったように山に入り浸り、すぐにひとつの問題に悩むことになる。食料だ。
山での連泊が増えるにつれて、食料と水の確保が困難になってゆく。山小屋に泊まればいいじゃないか、と思うかもしれないが、時間はあるけどお金はない若者にとって、山小屋は下界のホテル以上に贅沢な存在だった。
そんなある日、登山道を歩いていた私の前に、当時は考えもしなかった感じの人が、道のない藪の中から突然現れた。 その人はヘルメットを被り、腰には岩壁に挑む登山家だけがもつことを許されていると信じていたカラビナなどの金属をぶら下げ、なぜか手には長い釣竿(後にテンカラ竿だと知る)を持っていた。 それが、文字通り私に道(登山道)の外れ方を教授した源流師との出会いだった。

山で死ぬならここ、と思える絶景の秋山郷

信州秋山郷は、私が源流師へと成長するために多くの知識と経験をもたらしてくれた場所だ。いわゆるホームグラウンドってやつ。 私がいう源流師とは、川や沢の清流を道しるべに、最後の一滴に向かう源流を、時には泳ぎ、時には滝をよじ登りながら、道なき道で山頂を目指すスタイルだ。
よく沢登りと間違えられるが、決定的な違いはイワナへの執着だろう。

沢登りはロッククライミングの亜流。源流師は渓流釣りのエクストリームバージョンだ。 沢登りは自分自身のスキルを試すために困難な滝を目指すが、源流師はどんなにすばらしい滝があろうと、イワナが生息していない沢には興味はない。 しかし、イワナが棲んでいるとわかると、どんなに困難な滝があろうと、誰も入らない道なき山奥だろうと、あらゆる手段を使ってイワナが棲む深山幽谷を目指す。
なぜそんなことをやっているか? 答えは簡単だ。 イワナは貴重なタンパク源になるし、日本の沢は飲料水になるからだ。 食料と水の確保の問題が一気に解決する、私にとってこれ以上ない最良の選択肢なのだ。 手持ちのお米とお酒、そして山奥で獲られるイワナと水、これらがあれば何日でも山の中で遊ぶことができる。それもとびっきりの絶景の中でだ。
見たこともない絶景の森を思い浮かべるとして、さらにそれを百倍くらいすごいものにしたのが源流の景色だと思ってほしい。 私はこれまで、日本全国数多くの沢に入っているが、イワナにつままれながら死んでもいいと思えた源流の景色は、秋山郷の中津川の源流、魚野川にあるのだ。

仙人が営む道なき宿

前々から友人を連れて行きたいと思っていた秋山郷の宿があった。 『もっきり屋』というへんてこな名で営業する山小屋で、素泊まり3000円、食事は500円で、客をもてなすことはない。 秘境の秋山郷に住んでいる村人が声をそろえて「仙人」と呼んでいる、東京生まれの文学好きの主人がひとりいるだけだ。 口は悪いし、小屋も古くて軋んでいるけど、人生の大切なものを考えさせてくれる時間を提供してくれる。 今回は熊もよく訪れる離れの小屋前でキャンプをしながら、母屋で食事を頂戴することにした。朝と夜飯を頂戴し、大人ふたりで8000円だ。

温泉天国の一面を体験できる秋山郷

旅に温泉は外せない。秘境の秋山郷には極上の秘湯がたくさんある。それも、温泉好きの友人を「ぎゃふん」といわせられるパワフルな温泉ばかりだ。 今回は、源流好きであり、源泉好きでもある私のセレクトに付き合ってもらうことにした。
まず到着早々に、屋敷温泉の青白く光る硫酸塩泉温泉で、タマゴ臭が強く香る温泉らしい湯を皮膚の隅々まで堪能してもらう。 それから一度もっきり屋に入り、キャンプの準備を終わらせてから、夜になる前に秋山郷最奥の中津川渓谷の河原野天風呂に行った。ここは完全自噴の熱い源泉が川横から噴出していて、自分で岩を積んだり退けたりしながら、川の水を混ぜてちょうどよい適温を探すが、だいたい途中であきらめる。
翌朝には、村の名前にもなっている小赤沢温泉の一番風呂を目指した。先のふたつの温泉とはまったく異なる泉質の含鉄塩化物泉。ここの凄さは、一番風呂でしか味わえない結晶化する湯膜だ。湧き出しは無色透明のお湯だが、鉄と塩分が強く、空気と触れ合うことで酸化し、赤褐色になると同時に硬化するようだ。お湯はとても強い個性と重量感があり、体の奥まで熱を伝えてくれる。
そして旅の仕上げの湯は、日本三大薬湯としてPRしている松之山温泉だ。温泉と認められる基準値の約15倍もの濃度を誇り、その香りはイソジンのような強烈な薬臭で、緑色に光る極上湯だ。松之山の温泉で髪を洗った後は、一週間ほど残り香で楽しむことができる。 このような極上の温泉巡りだけでも、秋山郷の奥深い旅が完成するほどだ。

上越信州国立公園の景色を堪能

一泊二日の旅の残り時間を使い、都会では決して見ることができない日本の原風景の思い出をお土産にした。
曲がりくねった細い山道をドライブするだけでも、原生林の素晴らしい景色を見られるが、村の神社や美人林と呼ばれているブナ林の絶景スポットは、さらにその上をゆく絶景の中の絶景を見させてくれる。 都会の喧騒でこびり付いたストレスが振り落とされてゆく、目には見えない空気の違いをはっきりと感じることができる貴重な時間が訪れる。
この感覚を忘れないよう、思い出させてくれる場所にいることが、本当の贅沢なのだと感じる瞬間だ。

今回利用した車中泊キャンプスポット

もっきり屋→ウェブサイトはこちら
長野県下水内郡栄村大字堺17844-31
アドバイス:車高の低いクルマはおすすめしない。冬は道がなくなるので、ご主人と相談のうえでチャレンジすること。

主人の長谷川氏の格言
「人生で起こる出来事の95%は大した事ではない。」by はせがわ

金田剛仁さん

著者:金田剛仁KANEDA KOJI

源流ライター。1976年7月生まれ、かに座、O型。
2004年のゲリラキャンプで山に目覚め、冬は山スキー、春は山菜、夏はイワナ、秋はきのこを追いかけながら、いつの間にか深山幽谷を旅する源流師となる。日本山岳ガイド協会所属。アウトドア中心の制作会社ハタケスタジオ代表取締役。前人未踏の人力チャレンジをサポートする人力チャレンジ応援部代表。